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石塚元太良
Gentaro Ishizuka "You went too far to north"

March 2 - April 14, 2007

Pipeline Alaska Pipeline Alaska Pipeline Alaska Pipeline Alaska Pipeline Alaska
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北米最大の埋蔵量を誇るアラスカ北極海の油田は、1年のうち4分の3が凍結するブルードベイから、太平洋側の不凍港バルーデーズまでパイプラインで運ばれている。そのパイプラインは南北でアラスカを縦断し、その距離はじつに1,280キロ。人工の建造物としては、万里の長城についで、地球で2番目の長さである。1977年に約4年かけて建造、敷設されたが、パイプそのものは日本の製造会社が受注してもいる。

手つかずの「荒野」を旅するつもりで、初めてアラスカを訪れたのは2003年春。そこで僕の眼をとらえたのは、「荒野」ではなく荒野のなかをひた走るパイプラインのほうだった。大自然の中を延々にもちろん一度の断続もなくつづくその人工物は、人類の営みのどこかしらのおかしみやなんだか悲しみまでをも体現しているように思えた。なんでまた、人間はこんな最果ての地にまでこんなものを作らなくてはいけないのだろうかと。そして、それはまた石油という日常的に僕らが生活の中で必要としているものを運んでいる以上、僕ら自身でもあるとさえ言えはしないだろうか?ただただ美しい北極圏の自然のなかで、パイプラインは人の営み同様、どこかせつなく、どこかしらのおかしみを持って僕の眼をとらえたのだった。

石塚元太良

gallery.sora.では、3月2日(金)より4月14日(土)まで、石塚元太良「You went too far to north」展を開催致します。

石塚元太良は1977年東京生まれ、2002年にエプソン カラーイメージング コンテスト大賞を受賞して注目を集め、翌2003年にビジュアルアーツフォトアワード大賞、2004年には日本写真協会賞新人賞を受賞した期待の若手アーティストです。2001年に『worldwidewonderful』(Niepce刊)、2003年には『worldwidewarp』(ビジュアルアーツ刊)、2006年に新作の『WWWWW』を青幻舎から出版するなど、デビューしてから次々と写真集や展覧会など幅広い活動を展開しています。

2007年の春に、これまで3年間取り組んできたアラスカのパイプラインの写真が作品集としてまとめられ、この出版を記念してgallery.sora.では「Pipeline Alaska」シリーズ(約50点)から作家が選んだタイプCプリント作品(4x5のカラーネガフィルムで撮影)を展示・販売致します。

石塚はデジタルカメラによって撮影した圧倒的な量から構成される写真群で、2001年に鮮烈なデビューを飾りました。19歳で初めて海外を旅してから、石塚がこれまでに訪れた国はおよそ60カ国、さらに地球を西周り・東周りを交互に繰り返した世界一周の旅を4周経験しています。『worldwidewarp』と『WWWWW』という2冊の写真集では様々な国を訪れ地球をそれぞれ2周する一方で、北極圏を彷徨い3年間撮り続けたアラスカは特別な場所であったに違いありません。---「地球をたった4周したにすぎない」という本人の言葉に表れているように --- 石塚にとって旅の写真は単なるランドスケープやポートレイト、ドキュメンタリーといった枠を越えた未知の可能性を秘めていると言えるでしょう。

無人の荒野をどこまでも果てしなく延びるパイプライン。アラスカを南北に縦断する世界で2番目に長い人工建造物だ。凍てついた大地を這うように、美しい地平線に突き進むかのように走るその線は、人工と自然の対比というより、地球の巨大な力を指し示すサインのようにも、人間の滑稽さや悲哀を表す象徴のようにも思える。めまぐるしい移動を繰り返しながら自己・他者・場所についてのアクチュアルで軽やかな思考の痕跡を発表してきた石塚はただひたすらにこの白い道標に導かれ、写真を撮り、長い旅を続けた。その果てに生まれたイメージの連なりは、移動することで浮上する世界を覆う薄膜上の亀裂のようにも見えてくる。このパイプラインは、旅により自己を深く揺るがし逆転させてゆく高速の旅の知覚の化身なのかもしれない。

(美術史家 伊藤俊治)※「SPIRAL PAPER」115号より引用

写真集発売のお知らせ
石塚元太良最新写真集『PIPELINE-ALASKA』
株式会社プチグラパブリッシングより2007年3月末発売予定
http://www.petit.org/
アートディレクション:古平正義(FLAME) 
協力:ユポ・コーポレーション

同時開催
art-life+ vol.9 石塚元太良展「はじまりへの導線—Trans Alaska Pipeline」
会場:スパイラルガーデン(青山)会期:2007年4月3日から4月15日まで
http://www.spiral.co.jp/about_spiral/garden.html
スパイラルの展覧会では、幅20mに及ぶラムダプリントの迫力ある展示を中心に、写真集未掲載のタイプCプリント作品(フォトアクリル加工)も約10点展示する予定です。