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ケリス・ウィン・エヴァンス
会期: 2026年3月28日 – 4月25日
会場: 草月会館1F 石庭「天国」(東京都港区赤坂7-2-21)
開場時間:10:00 – 17:00 / 定休日:毎週日曜日
タカ・イシイギャラリーは、3月23日(土)から4月25日(土)まで、東京・赤坂の草月会館1Fの石庭「天国」にて、英国人現代美術作家ケリス・ウィン・エヴァンスの個展を開催いたします。2018年と2023年に同会場にて開催された個展に続く第三章と位置づけられる本展では、作家の代表作である抽象的な大型ネオン作品に加えて、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の日本語訳の一部を基にした作品とさまざまな音を発するモビール作品を展示いたします。
花は美しいけれど、
いけばなが美しいとはかぎらない。
花は、いけたら、花ではなくなるのだ。
いけたら、花は、人になるのだ。
『勅使河原蒼風 花伝書』草月出版 1979年11月刊 p. 19
エヴァンスは、文学、映画、美術、天文、物理といった分野において、既存の認識の枠組みを問い直してきた先駆的な試みに関心を寄せています。それらを引用し、ネオンや光、音といった別のメディウムに移し替えることで、コンテンツに内在していた美しさを召喚し、作品の背後にあるコンセプトを重層化させていきます。エヴァンスの実践は、何か特定の新しい意味を提示するというよりも、むしろ意味がどのように形成され、いかに固定化されているのかを露わにし、それを解きほぐす契機を提示するものです。奥深い知性とユーモアを湛えながら、彼の作品は私たちを既存の認識の枠から逸脱させ、世界を別様に捉え直すための余白をひらいていきます。
本展の会場である、イサム・ノグチによる石庭「天国」(1977年)は、丹下健三設計による草月会館正面玄関奥の、開放的なガラス張り空間に位置しています。この草月会館を本部とするいけばな草月流は、1927年に勅使河原蒼風により創始されました。それまでの形式主義的ないけばなに対し、場所・人・素材を問わない前衛的かつ型破りな作品によって、いけばな界に大きな衝撃を与えました。戦後には積極的に海外へ展開し、現代美術とも接続しながら、その精神を今日に至るまで継承・深化させています。
草月流の前衛思想に深く共感するエヴァンスは、この石庭で個展を開催することを切望し、2018年に初回の個展が実現します。同個展においてエヴァンスは、緩やかに明滅する3本の光の柱を石庭に配し、その音色にも似た気配を浮かび上がらせることで、この場に刻まれた記憶が音もなく上演される舞台へと変容させました。この光の柱が再び現れた2023年の第2回展では、石庭の最上段にプルーストのテキストを基にしたネオン作品が配されました。吉川一義氏によって仏語から日本語に訳されたテキストは、エヴァンスによりネオンに転換されることで、「読むもの」から「見るもの/体験するもの」へと変質し、鑑賞者の身体的知覚に直接働きかけました。
2018年、2023年、そして今回の個展は、前後の展覧会をつなぐように姿を現す作品を媒介として結ばれています。これら三部作の個展は、濃密な文脈が凝縮された、建築的にも特異な空間への巡礼を促すかのようです。最終章と位置づけられる本展には、プルーストのネオン作品が再び登場するとともに、エヴァンスの代表作である、まるで空中に光でドローイングを描いたかのような、抽象的な大型ネオン作品が展示されます。この作品は、青森県弘前市を象徴するりんごに着想を得て制作されたものです。
本作では原罪の寓意、世界的テクノロジー企業のロゴ、万有引力の法則にまつわるりんごの逸話、さらには水星の公転軌道が同法則にわずかに従わないことが相対性理論の必要性を示した事実など、りんごをめぐる様々な文脈が多層的に引用されています。宗教は人間の思考・社会・文化の基盤を形作る装置として機能し、テクノロジーは我々の認知・関係性・生活構造そのものを再編する基盤となり、物理学の発展は、現象を神秘ではなく、理性と法則によって把握できるという近代的世界観を確立したとされています。
エヴァンスのネオン作品が、しばしば能におけるシテの「型」──すなわちコンテンツを運ぶ器そのもの──を説明するダイアグラムを引用してきたことを踏まえるならば、本作はその実践を反転させ、アイデアの閃きのような放射状の形態や、水星の軌道やリンゴの断面を想起させる具体的なフォルムを通じて、コンテンツそのものを前景化している点において特異といえます。
表面仕上げの違いによって様々な表情を見せる石、刻々と変化する天井から差し込む光、そして流れ落ちるその音で空間を満たす水によって成り立つ石庭「天国」は、鑑賞者に様々な視点を与える庭でもあり舞台でもあります。8年をかけてこの特異な場との対話を重ねたエヴァンスは、本展において抽象ネオン作品という自身の花をいけます。
ケリス・ウィン・エヴァンスは1958年ウェールズのラネリ生まれ。現在ロンドンを拠点に活動。主な個展として、オーストラリア現代美術館(シドニー、2025年)、ポンピドゥー・センター・メッス(2024年)、草月会館(東京、2023年、2018年)、アスペン美術館(2021年)、ポーラ美術館(神奈川、2020年)、ピレリ・ハンガービコッカ(ミラノ、2019年)、タマヨ美術館(メキシコ・シティ、2018年)、テート・ブリテン・コミッション(ロンドン、2017年)、Museum Haus Konstruktiv(チューリッヒ、2017年)、Museion(ボルツァーノ、イタリア、2015年)、サーペンタイン・ギャラリー(ロンドン、2014年)、Bergen Kunsthall(ベルゲン、ノルウェー、2011年)、バラガン邸(メキシコ・シティ、2010年)、カスティーリャ・イ・レオン現代美術館(2008年)、パリ市立近代美術館(2006年)などが挙げられる。主なグループ展として、ミュンスター彫刻プロジェクト(2017年)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2017年)、モスクワ・ビエンナーレ(2011年)、愛知トリエンナーレ(愛知、2010年)、「万華鏡の視覚:ティッセン・ボルネミッサ現代美術財団コレクションより」森美術館(東京、2009年)、横浜トリエンナーレ(2008年)、イスタンブール・ビエンナーレ(2005年)、ウェールズ代表として参加したヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2003年)などがある。
本展覧会は、ルイナール(MHDモエ ヘネシー ディアジオ)と草月会の協力により開催されます。
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