EXHIBITIONS
奈良原一高 「消滅した時間」
会期: 2025年6月12日(木) – 7月19日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルムは6月12日(木)から7月19日(土)まで、奈良原一高「消滅した時間」を開催いたします。当廊で2年ぶりの個展となる本展では、1970年から74年にかけて滞在したアメリカを独自の巨視的な眼差しで捉え、帰国後の1975年に写真集として結実した同名のシリーズより15点のヴィンテージプリントを展示いたします。
霧が薄く流れ始めた夜、サンフランシスコの港の近くを歩いていた僕は、蔦に包み込まれてしまった一軒の家に出合った。扉の上には葉の間から5・・という番号が見えた。この家の中には人が居るのだろうか?
この家の中に全く想像もつかない営みがあるとしたら……そのようなことは想像してみるだに恐ろしいことだった。それは人の心の中を覗こうとする行為にも似ていた。あらためて僕は自分の心の中に広げられたもうひとつの国の光景を想った。その国の中に四年の間、僕は住んでいたのだった。僕の手で扉が閉じられたとき、その国の光景は、アメリカという舞台の照り返しを受けながら、もはや現実としての時間を消滅させていた。
奈良原一高、1975年1月
「水のない海」、『消滅した時間』朝日新聞社、1975年、n.p.
1960年代前半にヨーロッパを巡った奈良原は次の滞在先をアメリカに決め、1970年にニューヨークへと渡ります。翌年、当時気鋭の写真家として名を広めつつあったダイアン・アーバス(1923-1971)主催のワークショップに参加し、ストレートでパーソナルな視点をもった作品を生み出すアーバスと深く議論したことは、奈良原にとって写真を改めて考え直す重要な契機となりました。その後、奈良原は1971年と72年にアメリカを横断する旅に出ます。1回目は長距離バスで西部へと至り、およそ20日間かけてレンタカーで各地を巡りました。その翌年、2度目の旅では新たにステーションワゴンを購入すると、ペンシルベニア州やイリノイ州など中西部を経由して南部のミズーリ州へと移動し、そこから前年と同じく西部を訪れる3ヶ月の長期にわたる旅程でした。先住民たちが暮らすニューメキシコ州の村を訪れその思想に触れた奈良原は、自然との共存のあり方を身をもって体感したと語ります。広大な砂漠地帯に位置する閑散とした飛行場や、かつて炭鉱業で栄えたゴーストタウンの荒廃が表徴するのは、人間の生を超えた遥かなる時間を刻み込む自然の作用であり、奈良原自身が振り返るようにそれらの光景はあたかも地球外の惑星に降り立ったかのような感覚を与えます。剥き出しの大地を容赦なく照りつける太陽の光は、奈良原の写真において強いコントラストをもって深遠な影を描き出し、画面の中で凝縮しています。およそ半世紀前に奈良原が閉じたアメリカの原風景への扉を再び開くとき、時空を超えたイメージが私たちの前に現れ、写真を通じて普遍へと至ろうとする作家の境地を目の当たりにするでしょう。
8月下旬に、復刊ドットコムより写真集『消滅した時間 Where Time Has Vanished』の刊行が予定されています。
【新刊情報】
奈良原一高『消滅した時間 Where Time Has Vanished』
復刊ドットコム刊(2025年)
販売価格: 13,000円+税
8月下旬一般発売予定
奈良原一高は1931年福岡県生まれ(2020年没)。検事であった父親の転勤に伴い、国内各地で青春期を過ごす。1946年に写真の撮影を始める傍ら、芸術や文学などにも関心を寄せ、1954年に中央大学法学部を卒業後、早稲田大学大学院芸術(美術史)専攻修士課程に入学、1955年には池田満寿夫、靉嘔ら新鋭画家のグループ「実在者」に参加。池田龍雄や河原温といった芸術家や瀧口修造らとも交流を深めると同時に、東松照明、細江英公、川田喜久治らとも知り合い、1959年には彼らとともにセルフ・エージェンシー「VIVO」を設立(1961年解散)。その後も、パリ(1962–65年)、ニューヨーク(1970–74年)と拠点を移しながら世界各地を取材し、多数の展覧会を開催。写真集も数多く出版し、国際的にも高い評価を受けている。主な個展に「人間の土地」松島ギャラリー(東京、1956年)、「Ikko Narahara」ヨーロッパ写真美術館(パリ、2002–03年)、「時空の鏡:シンクロニシティ」東京都写真美術館(2004年)、「王国」東京国立近代美術館(2014–15年)など。主な受賞に日本写真批評家協会新人賞(1958年)、芸術選奨文部科学大臣賞(1968年)、毎日芸術賞(1968年)、日本写真協会年度賞(1986年)、紫綬褒章(1996年)、日本写真協会功労賞(2005年)、旭日小綬章(2006年)など。



