EXHIBITIONS
ケリス・ウィン・エヴァンス
会期: 2025年5月3日(土)– 6月21日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー 京都
オープニング・レセプション: 5月3日(土)16:00 – 18:00
タカ・イシイギャラリー 京都は 5月3日(土)から6月21日(土)までケリス・ウィン・エヴァンスの個展を開催いたします。本展は1990年代から幾度となく来日を重ねてきたエヴァンスの5回目の個展であり、京都では初となる個展です。築150年の町家建築であるギャラリーの各所に様々なサイズのガラス板が配され、ギャラリーを撮影した写真などを基に制作されたフォトグラビュール作品16点を発表します。
ある展覧会に向けての思索(京都矢田町への手紙)
親愛なる光、空間、そして時間へ。あなたたちは返事をくれるかもしれない。
私たちの主題は、この古い家に宿っているようです。
空間は、床の間での熟考に捧げられ、そこでは対話が舞台上に立ち現れます。
最初に感じるのは「空白」であること。そこにガラス作品を配する。反射性をもちながらも透明であるという、その繊細な特性……それは、存在の「音色(タンブル)」であり、時の流れの中で変容する空間の魂となり、ほとんど知覚できない次元を明らかにしていきます。ほとんど。
そして今、絵が現れます。ただし、それは壁にかけられた状態ではなく……
まるでサウンドトラックのように並行して存在し、それを見つめ、手に取ろうとする者に対して差し出されます。
それらの絵は、フォトグラビュールという、絶えつつある技術によって制作されました。この技法には、特有の官能的な質感があります……それらは「印象/印/跡」なのです。
この古い家で撮影されたイメージは、実際の建物の佇まいと韻を重ねます。また、別の場所で撮られたイメージはある感受性を喚起し、「もうひとつの世界」のようなものを指向します。
いつか私たちは、ここを離れることを選ぶでしょう……表象の空間、そしてその「主観的」な視点から立ち去るのかもしれません。
ここ矢田町において、絵画的なるものの条件そのものが、「可視的なるもの」に照らして再考されうるのです。
ケリス・ウィン・エヴァンス
エヴァンスは、文学、映画、美術、天文学、物理学といった多様な分野における先駆者たちの試みを引用した、コンセプチュアルな作品で知られています。これらのコンテンツを伝えるための舞台やテキスト、記号、イメージ、光、音などの「器」を自在に操ることで、作品は視覚、空間感覚、聴覚といった五感の境界を越え、共感覚的な体験として知覚されます。エヴァンスの作品は、社会的慣習や教育によってかたどられた世界の輪郭から、深い知性と諧謔によって私たちを解き放ちます。
本展においてエヴァンスは、伝統的な町家建築の音色を立ち上がらせて、作品の主体を「場」そのものへと移行させます。谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で、日本家屋における採光の抑制が、漆器や蒔絵、屏風、床の間などの美しさを際立たせると述べ、日本の美意識が陰翳の濃淡によって成立していることを指摘しました。エヴァンスは大小様々なサイズのガラス板をギャラリーの各所に配します。存在感の幽かな透明なガラス板は、屋内に差し込むはかない光線を静かに留め、建物の佇まいを淡く映し返します。
エヴァンスはまた、この建築に捧げる16点のフォトグラビュール作品を制作しました。屋内にかろうじてたどり着いた繊細な光が土壁に染みこむようにそっと落ちる様子などの6点は、ギャラリー内の光を撮影しており、10点はエヴァンスが同じ気配を感じた、他の様々な場所で撮影された写真です。作家の鋭敏な感受性によって編まれた16点のイメージが、視覚言語での対話を繰り返すことで、私達が知覚するギャラリーの物理的な空間は揺らぎ始めるでしょう。