EXHIBITIONS
ジャスティン・カギアット&ラファエル・デラクルズ 「The Toys of Peace」
会期: 2024年10月5日(土) – 11月10日(日)
会場: タカ・イシイギャラリー(complex665)
オープニング・レセプション: 10月5日(土)17:00 – 19:00
タカ・イシイギャラリーは、10月5日(土)から11月10日(日)まで、ジャスティン・カギアットとラファエル・デラクルズの展覧会「The Toys of Peace」を開催いたします。本展はカギアットにとって当画廊で2回目の展覧会ですが、両作家のコラボレーションによる作品の発表としては今回が初めてとなります。
本展では、ギャラリーの西側の壁から北側の壁にかけて5点のペインティングが並びます。どのキャンバスも凧のような形状をしており、整然と保存された動かない蝶のようです。凧の尾っぽの部分は、東京で二人が出会った様々な素材で形成されています。画面に描写された図像は展示室内の別の箇所で上映されるフィルムに由来するものです。ある意味で、これらのペインティングは映画のポスターであると言えます。人々はそれを眺めながら、もともとの──キャンバスが菱形化する際に一連の折り目によって抽象化される以前の──静止画を想像することができるのです。画面に辛うじて留まった像は乱雑な都市の風景や人々の姿を仄めかし、そのところどころに場所の名前などが鉛筆で殴り書きされています。こうして、飛ぶ機能を持たない凧たちに不明瞭なグラフィック・デザインが囲い込まれるのです。
これらの凧たちはセンターステージから離れ、不自然なほど水平な線に沿って漂っています。その逆側では一体の等身大の人形が、自身が着ている毛羽立った衣装と同じ色──テディベアブラウン──で塗られた仮設的なシアターセットで崩折れ、座り込んでいます。背後の画面は混濁したモチーフで覆われており、それがこのコンポジション全体を枠付けています。展示室の反対側に並ぶ凧たちはこの人形が手放したものなのでしょう。人形は脱活性化されており、自分の顔を上げておくことすらままならないようです。
この人形の生は、ステージカーテンのすぐ向こう側、東側の壁に投影された16mmフィルム──ループ再生されるノンリニアな10分半ほどの夢──において展開しています。フィールド・レコーディングの音と人為的な効果音が使われ、カギアット、リリー・ピケット、そしてカギアットとピケットの二人の子供たちの作曲による楽曲群がポロポロと響くなか、人形はロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークを練り歩き、跳ね回ります。排水管を伝って落ちる水の音、トコトコと踏み鳴らされる足の音など、非物語世界の音像はまことしやかでありながら、映像とわずかにズレて鳴らされます。ラジオの内部をよじ登る幽霊はマウスピースを探しているようです。
人形が煌めく都市を徘徊することには目的がありますが、そのなかで邂逅するのは名前を持たない、動機も分からないキャラクターたちです。互いを見つけ、輝くアメリカンイーグルの看板の下を走り抜け、オイルを塗りたくったボディビルダーの周りをグルグルと回る、美しいピエロたち。そのピエロたちを尾行しているようにも思える、帽子とサングラスの怪しげな人影。カメラを持った金髪の少女がピエロたちを尾行しているのは確実です。一行は光の帯に照らされた線路の底面に沿ってスキップし、陽光を浴びた牧草地帯に辿り着き、吹く風と行き交う凧の最中で戯れます。他の場面では、映画のセットを舞台に、辿々しいダンスのリサイタルが繰り広げられます。人形はぎこちないアニメーションで動きつつ、木製の十字架の側を慎重な足取りで通り過ぎ、両手の拳を机に打ちつけ、自身の重さで再び崩れ落ちる前に空中浮遊を求め…。人間としてのあり方をめぐって数々の災難が巻き起こります。
ジャスティン・カギアットは1989年生まれ。現在ニューヨークとオークランドにて制作・活動。カギアットは近年、ロンドンのModern Art(2023年)やニューヨークのGreene Naftali(2022年)で個展を開催するほか、北米や欧州のギャラリーやプロジェクトスペースで多くのグループ展に参加。他の重要なプロジェクトにチューリッヒのKunsthalle Zürich (2017年)やリッチモンドのThe Sunroom(2017年)でのパフォーマンスが挙げられる。2017年にはCodetteから『A RAT, A DOG, A BOY』と題された詩集も刊行。
ラファエル・デラクルズは1989年サンフランシスコ生まれ。現在バークレーとニューヨークで制作・活動。サンフランシスコのCushion Works(2024年)やニューヨークのMitchell-Innes & Nash (2023年)で個展を開催するほか、トーキョーアーツアンドスペース(2020年)やオークランド美術館(2014年)などでグループ展に参加。
執筆: Blue Marcus