EXHIBITIONS

山元彩香 「Sand, Water and Dust」

会期: 2024年9月21日(土)– 10月26日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム
オープニング・レセプション: 9月21日(土)17:00 – 19:00

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルムでは山元彩香の個展「Sand, Water and Dust」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーで4度目の個展となる本展では、ヨーロッパとアジアの境界に位置し独自の文化と歴史を持つ国、ジョージアで2023年に撮影された作品群を発表いたします。

翻弄されながらも、多層的な声を受容した継ぎ接ぎの器に、かたく守られた彼らの心臓がある。
「私は砂と水と埃でできている」と少女が言った。
砂や埃は風に乗り、海は雨になるように、はるか昔から遺る感受性は、地に染み込み、生まれ継ぐ人々に循環する。その一滴を受け取ることの尊さ。

2024年9月 山元彩香

山元は、これまで異国の地で出会った少女たちを被写体に、彼女たちの普段見ることのできない空虚のような、捉えどころのない姿を写真に収めてきました。最近では、人間がその土地を反射する鏡のような存在であると考え、同じ土地で長く暮らす人々を観察することで、彼らがまるでその土地のポートレートのように見える瞬間があると述べます。山元が映し出す少女たちの虚な姿には、その土地が有している時間や風土や文化までもが内包されており、土地そのもの自体の膨大な記憶が茫漠と漂っているかのようです。山元自身も2年前に沖縄に拠点を移したことで、自然豊かな環境の中で心身ともに変化し、彼女の作風にも緩やかな変化がもたらされました。本展では新たな試みとしてポートレート作品と、被写体と繋がりある風景写真を2枚1組で展示するという、これまでになかった作家の挑戦を窺うことができます。2枚の作品は、それぞれ独立した作品ではありますが、併置されることでより被写体の内側深くにある土地の記憶にも干渉するような作品へと昇華されています。

今回の制作過程で山元は、ジョージアに紀元前2000年や紀元前1世紀から存在した、自然に囲まれた集落の跡を訪れています。それらの地で約8000年にわたるワイン製造、4世紀初頭から続くジョージア正教会のブドウ十字やフレスコ画といった古くからの文化や伝統が地層のように積み重なる様子に出会い、また「土っぽい」生命力を感じさせる人々や自然の姿に触れました。ブドウの蔦やジョージア文字、窓格子のデザインなどの螺旋の形状は、人の遺伝子の螺旋構造を連想させ、生命とのつながりを思い起こさせます。今回の一連の作品では、人と自然と文化とが豊かに関わり合うジョージアの風土に感化された作家が、人間が持つ普遍的な自然観や性質にも目を向けたことが窺えます。自然と人間のつながりは、希薄にはなったとはいえ切り離すことができないものです。本作品群は、それを再認識する機会になることでしょう。

本展の展覧会タイトル「Sand, Water and Dust」は、山元が被写体に対して行う様々な質問への回答として一人の少女が自分を構成する要素として挙げたもので、これは山元自身がジョージアを訪れた際の自らの感覚に最も近いと感じたものでした。「砂」は宗教儀式で多用され、意識と無意識の境をつなぐ象徴として、この循環する物質世界の中心的な素材です。「水」は生命を育む無機物であり、また「埃」はジョージアの街に舞う土埃やソビエト時代からの崩壊寸前の住宅を喚起します。さらに英語「dust」は遺骨や埋葬地を示唆し、古代英語では人間の基本的な物質として無機物と有機物の中間とされています。様々な問いを介してその土地とより深く関わり、土地と人が等価となり得る新たな切り口で撮影を試みた山元のアプローチを本展覧会でぜひご高覧ください。

山元彩香は1983年神戸市生まれ。2006年に京都精華大学芸術学部造形学科洋画コース卒業。大学では最初、絵画を専攻するが、次第に自身の身体を使ったパフォーマンス作品や映像作品の制作に移行し、2004年のサンフランシスコへの留学を機に写真の制作を始める。言語によるコミュニケーションが難しい状況のなかでの撮影は、写真というメディアが本質的に抱える性質以上に他者との様々な接点を作家にもたらし、以降、暴力的でありながらも極めて魅力的なイメージ生成の場と言えるポートレートの撮影を続ける。馴染みのない国や地域へ出かけ、そこで出会った少女たちを撮影することで、その身体に潜む土地の記憶と、身体というものの空虚さを写真にとどめようとする。2009年のフィンランド、エストニアでの撮影を皮切りに、エストニア(2010年)、ラトビア(2011、12、14年)、フランス(2012、13年)、ロシア(2014年)、ウクライナ(2015年)、北海道(2015年)、ブルガリア(2016年)、ルーマニア(2017年)、ベラルーシ(2018年)、マラウイ(2019年)、沖縄(2020、21年)ジョージア(2023年)と各地で撮影を行ってきた。主な個展として「We are Made of Grass, Soil, Trees, and Flowers」タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー / フィルム(東京、2021年)、「organ」void+(東京、2019年)、主なグループ展として「記憶は地に沁み、風を超え 日本の新進作家 vol.18」東京都写真美術館(2021年)などが挙げられる。東欧やアフリカの各地で撮影を行い、国内外で写真展やレジデンスに参加。2019年に出版された写真集『We are Made of Grass, Soil, and Trees』(T&M Projects、2018年)でさがみはら写真新人奨励賞を受賞。東京都写真美術館、清里フォトアートミュージアム(山梨)、Villa Pérochon Centre d’Art Contemporain Photographique(ニオール)に作品が収蔵されている。

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