EXHIBITIONS

佐内正史 「静岡詩」

会期: 2023年9月22日(金) – 10月28日(土)
会場: amanaTIGP
オープニング・レセプション: 9月22日(金)18:00 – 20:00

amanaTIGPでは、9月22日(金)から10月28日(土)まで、佐内正史の個展「静岡詩」を開催いたします。amanaTIGPでの初個展となる本展では、1990年代から2023年にかけて、静岡市とその周辺で撮影された作品約15点を展示いたします。本展は、今年7月から8月にかけて静岡市美術館で開催された同名展覧会を再構成したものです。

1995年に写真新世紀優秀賞を受賞し、1997年に多くの反響を呼んだ写真集『生きている』でデビューした佐内は、明確なメッセージを持たない写真で注目を集め、90年代を代表する写真家の一人として高く評価されています。

部屋の片隅、道端のガードレール、車、食事、といった日常生活でよく目にする光景が鮮明に写された写真でありながら、佐内の作品はいつも曖昧で、捉えどころがないように感じられます。スナップ写真の主流とされていた心象風景や社会、時代の記録とは一線を画す、叙情的でも叙事的でもない風景を撮影することでスナップ写真の新領域を開拓しました。

私の中に写真を撮る気配があって、その気配を撮ろうかなって、カメラを構えるんだけど、そこでは撮らないで、私が動いたり向こうが動いたりしているうちに、気配が無くなりかけた時、その時押す。

2023年8月 佐内正史

佐内は一貫した作風で、断続的に地元の静岡市とその周辺を20年以上に渡って撮影してきましたが、今日に至るまでそれらを作品として発表したことはありませんでした。ネガのまま長期にわたって保管されていた写真群は、静岡市美術館の企画を契機にこの度新作と織り交ぜて発表する運びとなりました。長年撮りためてきた静岡での作品を2023年まで発表しなかった理由として、作家は地元で撮影することの「重さ」があったと言います。

地元を写真に撮る、なんで嫌なんだろう。高速で清水インター近くになるとトンネルを何個か越えて段々重苦しくなる。静岡インターあたりで反動なのか生命、お腹が空いてる感じかなと思って空いてないですか?徐々にテンション上げていこうと生命が動き出す。何かわからないけど私が子供なのか大人なのかわからなくなっていく。脚立に乗って少し目線が高くなると写真が撮れる。普段脚立に乗って写真を撮ることはないけれど。写真を撮るのに私の地元が邪魔をする。写真は写真の個性を撮るもので私の個性を撮るものじゃない。

佐内正史『静岡詩』対照、2023年、n.p.

「写真そのものの個性」を常に意識し、作家の個性を束縛だと考える佐内は、少年時代の記憶と密接に結びついている風景を撮影することに抵抗感を持っていました。しかし、重苦しさは撮影の回数を重ねていくことで徐々に軽くなっていったようです。自身にとって郷愁的だった風景は普遍的な日常の風景に変わり、そうした写真群は鑑賞者それぞれの記憶に基づいた風景を想起させるでしょう。

写真と見る側との間には、もう一枚の写真があって、なんでそうなるのかって考えたら、「やさしい」って浮かんできた。それは私がやさしいのではなく、写真がやさしいなって。

2023年9月 佐内正史

人間の視覚経験を瞬時に記録できる写真というメディアは、撮影者が感じた時間やその場の空気を手早く反映します。その性質に魅了された多くの写真家は、自身の意図が介在する物語を生み出してきました。佐内は作品に宿る作家の存在感を自然に抑えることで写真に包容力を見出し、それを「写真のやさしさ」と評しています。こうしたアプローチによって構成された作品群と対峙するとき、目の前に佇む画面を目にしながら、同時に鑑賞者自身が生み出した風景もまた浮かび上がるのです。

本展の開催に合わせ、作品集『静岡詩』が刊行されます。

【新刊情報】
佐内正史『静岡詩』
対照刊(2023年)
販売価格: ¥2,500-(税込)
ソフト・カバー、四六判変形、208頁、図版96点
佐内正史によるテキスト収録(日本語)

佐内正史は1968年静岡県静岡市生まれ。1995年に第12回キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞し、1997年『生きている』(青幻舎)でデビュー。2003年に写真集『MAP』(佐内正史写真事務所)で第28回木村伊兵衛写真賞を受賞。2008年に自主写真レーベル「対照」を立ち上げ、写真集制作にも力を注いでいる。自身の意図を明確に語らせない写真を目指す作風で評価され、90年代以降の日本写真家に強い影響を与えた。その活動は文学、ファッション、音楽など多岐にわたる。主な個展に、「静岡詩」静岡市美術館(静岡、2023年)、「ラレー」NADiff a/p/a/r/t(東京、2012年)、「対照 佐内正史の写真」川崎市岡本太郎美術館(神奈川、2009年)など。「日常のなかの予期せぬ素敵な発見」東京都写真美術館(東京、2023年)、「2020 Seoul Photo Festival: Unphotographical Moment」ソウル市立北ソウル美術館(ソウル、2020年)、「岡本太郎美術館20周年記念展 これまでの企画展みんな見せます!後期/ 芸術と社会・現代の作家たち」川崎市岡本太郎美術館(神奈川、2019年)、「いま、ここにいる」東京都写真美術館(東京、2017年)、「島島」(瀬戸内国際芸術祭、2013年)などの国際展やグループ展に参加。東京都写真美術館に作品が収蔵されている。

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