EXHIBITIONS

石田尚志

会期:2012年3月31日(土) – 4月28日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー(東京・清澄)
オープニング・レセプション:3月31日(土)18:00 – 20:00

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タカ・イシイギャラリーでは初めての個展となる石田尚志の展覧会を3月31日(土)から4月28日(土)まで開催致します。本展のための新作は、石田のスタジオ内に作られた白い壁に「数ヶ月に渡ってペンキで描き続けたドローイング・アニメーション」を複数のカメラでコマ撮りしたビデオと16ミリフィルム作品から構成されています。石田は今回の作品制作の際に、ヴィトゲンシュタインと禅の思想、さらには蕪村の不在の橋を歌った俳句を思い出したと次のように語っています。

この作品には、壁や床に展開する絵の途上が記録されている。だが、これは無数にあったはずの絵の展開の可能性のひとつに過ぎず、むしろ記録されなかったものの総体こそがこの作品かもしれない。そう感じるのは、シャッターを切る度に、今この瞬間に描いて撮影したものとは違う、なにか別の線も同時に撮影しているような感覚が強くあったからだ。幾つかの角度からその部屋を撮影していたからかもしれないが、わずかに違う部屋が枝分かれるように幾つも別の場所に生まれていった。
部屋の外にどうやって行くかを考えつづけて、振り返れば戸口がある事に気付かない人についてのヴィトゲンシュタインの言葉を思い出す。

ある日、二人が一緒にいたとき、かれは哲学についてびっくりするような意見を述べた。「哲学的混乱のとりこになっている人は、室の中にいて外へ出たいと思っていながら、どうしたら外へ出られるのか知らない人に似ている。その人は窓をしらべてみるが、窓は高すぎる。煙突もためしてみるが、狭すぎる。しかし、もしこの人が振り返りさえしたら、そこのドアがずっと前からあいていたことがわかるであろう。」 

*ノーマン・マルコム「ヴィトゲンシュタインの思い出」『回想のヴィトゲンシュタイン』 pp.87-88より引用(藤本隆志訳、法政大学出版局、1974年)

それと同時に、作業中に心に浮かんでいたのは、不在の橋を歌った蕪村の句だった。

橋なくて日暮んとする春の水

石田尚志は1972年東京生まれの画家/映像作家。多摩美術大学准教授。2007年五島記念文化賞美術新人賞受賞。最近の主な展覧会として、2011年の「MOTコレクション:サイレント・ナレーター それぞれのものがたり [特集展示] 石田尚志」(東京都現代美術館)、2010年には「アーティスト・ファイル2010-現代の作家たち」(国立新美術館)、ポーランドの「第2回Mediations Biennale:Beyond Mediations」、「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.01-もうひとつの・カーニバル」(高松市美術館)、さらに2009年の「躍動するイメージ。石田尚志とアブストラクト・アニメーションの源流」(東京都写真美術館)などが挙げられる。また2012年3月14日から5月6日まで、モスクワ市近代美術館で開催される「モスクワにおける現代日本美術」展に参加している。