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五木田智央 「Get Down」
会期: 2021年6月12日 – 8月22日
会場: ダラス・コンテンポラリー
ダラス・コンテンポラリーにて6月12日より五木田智央の個展が開催されます。北米の美術館では初めての展覧会となる本展は「Get Down(ゲット・ダウン)」と題され、コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言下で描かれた未発表作を含む、最新の大型絵画の数々が展示されます。
独特のモノクロームの色使いやグレースケールの具象画によって、五木田の名前が初めて轟いたのは2005年のことでした。最新の作品群には、そうした実践を離れ、さらに先へと踏み出す作家の姿が如実に表れています。本展において彼が飛び込むのは、パステルの色調が躍動する広大な世界です。ピンナップ・モデル、女性レスラー、家族写真といったお馴染みのモチーフと並んで、日常的なシンボルの数々が画面に登場します。それらのシンボルは、過去1年間の出来事が幕を下ろそうとしている現在にあって、不条理性に限りなく近い要素として私たちの目下のリアリティを構成するものです。
今回の作品群には、ソーシャル・ディスタンスを保つ人々、そしてドナルド・トランプ前大統領の姿が頻出します。五木田の超現実的な世界における形体と内容の差異は、そのことによってより曖昧化しています。新作に取り組むにあたって、作家は「このコロナ渦において自分にできることはなにか?いったい人類はこれからどうなるのか?」といった問いに思いを巡らせるのではなく、「ただひたすら絵を描くことだけに集中していた」と語ります。作品の主題となる顔を持たない人物たちの相貌はどれも抽象化されており、新作では貝殻のような形象と化していますが、これまでと同じく、それらは脱構築、新表現主義、戦後のドイツにおける具象画の展開といった美術史的な伝統から要素を拾い上げたものです。そうした潮流から影響を受けつつ、不安定な光学的経験や不可解な物語性を紡ぎ出すことで、五木田は鑑賞者の視覚や感情の枠組みを揺るがします。彼の世界において、理想化された美や物語性は、特定の操作によって風変わりな歪さを帯びるのです。
1990年代にイラストレーションやグラフィック・デザインから正統派のアーティストとしての活動に移行した五木田は、それから30年近くに渡って、日本のサブカルチャーと国際的なアート・サーキットの双方で称賛を集めてきました。転向する以前も、五木田のイラストレーションはファッションや音楽の業界で大きな人気を博していました。アーティストとして活動を始めてからは、絵画のみならず鉛筆とインクを用いたドローイングにおいて、目を見張るほど多様なスタイルに取り組んでいます。それは、抽象と具象の二分法を打ち破り、両者を継ぎ目なく繋ぐことで、人々の心理を揺さぶる独自の実践として展開するのです。