EXHIBITIONS

奈良原一高 「生きる歓び」

会期: 2020年11月10日(火) – 12月12日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム

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タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、11月10日(火)から12月19日(土)まで、奈良原一高個展「生きる歓び」を開催いたします。1956年に「人間の土地」で鮮烈なデビューを果たした奈良原は、1960年代にヨーロッパ、70年代にはアメリカと場所を移しながら、様々な場で繰り広げられる文明のあらゆる側面-「文明の光景」を独自の巨視的な視点で捉え、詩情豊かな「パーソナル・ドキュメント」の表現手法で日本写真史における新時代を切り開きました。本展では、1971年6月23日から27日にかけてルイジアナ州マックレアで開催された野外ロック・フェスティバル「Celebration of Life」に奈良原が参加した際に撮影された作品シリーズ「生きる歓び」より21点を展示いたします。

 この本で僕は参加者の日常の姿にのみ視線を集めた。それというのも最初に僕がこのロック・フェスティバルに出かけた動機がロックやカントリー・ミュージックの愛好者として田園で皆と共に送る数日間の生活に参加するためであったからであろう。そのうえで写真を撮るという行為を通して、参加者としての自分の存在をさらに確かめることが出来るならばそれ以上に素晴らしいことはなかった。おそらく僕が写真をとったのは僕自身のどこかに写真家としての心が生き続けていたためだろう。しかし、写真を撮るために、参加者としての自分自身を破壊する気にはならなかった。もしそうしたならば、僕がこのフェスティバルに出かけたことも、また撮った写真も僕にとっては無価値なものに変わっていただろう。この本は参加者として生きるということと、写真を撮るという作業の微妙なバランスの上に成立した。
 僕はまさしく彼らのひとりとして、そこに共に生きていたのだし、それ故にこの本は同時代的なポートレート〔a portrait of the time we shared〕なのだ。

奈良原一高
『生きる歓び』毎日新聞社、1972年、p.91

「サマー・オブ・ラブ」と呼ばれたヒッピー・ムーブメントの真っ只中で行われた「モントレー・ポップ・フェスティバル」(カリフォルニア州、1967年)や「ウッドストック・フェスティバル」(ニューヨーク州、1969年)の大成功を傍目に、ディープサウスと呼ばれるルイジアナ州で開催された「Celebration of Life」は、米国全土から6万人を超える参加者を動員するも、地元当局の開催拒否や周辺住民の反対、衛生施設の不備に加えて、酷暑に見舞われ、開催予定日から3日遅れてスタートするなど、大混乱を極めました。その中で人々が音楽という目的を同じくし、「平和の意思を持つお互いを確かめ合いたいと希望」しながら生活する様を、同じ「参加者として生き」ながら丁寧な眼差しでありのままを捉えています。現実社会から逃れ、音楽と「田園カントリーでの生活」を享受するために集い、数日後には消えゆくコミュニティでのびのびと生きる若者たちの姿に共感し、自由を謳歌する人々の営みを写し取った作品群は、1970年代という社会と1960年代後半から続いたロックフェスティバル文化の黄金時代の情緒を色濃く写し出しています。

奈良原一高は1931年福岡県生まれ(2020年没)。検事であった父親の転勤に伴い、国内各地で青春期を過ごす。1946年に写真の撮影を始める傍ら、芸術や文学などにも関心を寄せ、1954年に中央大学法学部を卒業後、早稲田大学大学院芸術(美術史)専攻修士課程に入学、1955年には池田満寿夫、靉嘔ら新鋭画家のグループ「実在者」に参加。池田龍雄や河原温といった芸術家や瀧口修造らとも交流を深めると同時に、東松照明、細江英公らとも知り合い、1959年には彼らとともにセルフ・エージェンシー「VIVO」を設立(1961年解散)。その後も、パリ(1962-65年)、ニューヨーク(1970-74年)と拠点を移しながら世界各地を取材し、多数の展覧会を開催。写真集も数多く出版し、国際的にも高い評価を受けている。主な個展に「人間の土地」松島ギャラリー(東京、1956年)、「Ikko Narahara」ヨーロッパ写真美術館(パリ、2002-2003年)、「時空の鏡:シンクロニシティ」東京都写真美術館(2004年)、「王国」東京国立近代美術館(2014-2015年)など。主な受賞に日本写真批評家協会新人賞(1958年)、芸術選奨文部科学大臣賞(1968年)、毎日芸術賞(1968年)、日本写真協会年度賞(1986年)、紫綬褒章(1996年)など。

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