EXHIBITIONS

畠山直哉 「Ciel Tombé」(シエル・トンベ)

会期:2008年 4月30日(水) – 5月23日(金)
オープニング・レセプション:4月30日(水) 18:00 – 20:00


タカ・イシイギャラリーでは、4月30日(水)から5月23日(金)まで、畠山直哉展を開催致します。
当ギャラリー4回目の個展となる本展では、2007年にパリで撮影された「Ciel Tombé」(シエル・トンベ)シリーズより、約15点の写真作品を発表致します。

ヨーロッパには、街を建設するための石材を市街地直下の地中から切り出していた都市がありましたが、その中でもパリほど大規模な採掘がおこなわれていたところは他に類例を見ません。パリの地下は、中世から近代まで続いた採石作業のせいで、グリュイエール・チーズに喩えられるほど、穴ぼこだらけなのです。19世紀にナダールが写真にし、今では観光スポットとして有名なカタコンブ(地下共同墓所)も、じつは古くからの採石場の一角を利用して設けられたものでした。

かつて「ライム・ワークス」の中で「鉱山と都市はまるで一枚の写真のネガとポジのようなものだ」と書いた写真家は、近代のパリで同様の構造が垂直状に展開していたことに注目し、パリ市採石場管理局の協力の下、いくつかの地下採石場跡(その多くは石灰石)を訪れました。

「Ciel Tombé」とは、地下採石場跡の天井が剥がれて墜ちている状態を指す用語です。(直訳するなら「墜ちた天」ということに。)この落盤を放置すれば、やがて地上の建造物に悪影響が及ぶことから、20世紀には管理局によって徹底的に補修が行われました。

しかし、パリの東端、ヴァンセンヌの森の地下17mに位置する「ラ・ブラッスリー」と呼ばれる採石場跡では、地上に樹木ばかりで建造物がないために、いくつかの「Ciel Tombé」がそのまま放置されていました。「天が墜ちた」のがいつだったのかを正確に知る者は誰もいません。

Ciel Tombé

 ニュートンのリンゴは地表に落ちて止まったけれど、そこは重力の終点ではない。地表は落下運動の途中に差し出された掌に過ぎず、重力はそれを貫き、なおも下へ、地中へと向かっている。

 古代には、仰ぎ見る天空がいつか墜ちてきはしないかと心配した人達がいたという。科学時代に生きる今の僕たちに「天が墜ちる」光景を思い描くことは難しいけれど、「天」が重力に抗う頭上のトポスの謂いであると考えれば、彼らの心配を想像することも可能になってくるだろう。おそらく古代の彼らにとって、仰ぎ見る蒼穹は「空無」ではなくひとつの「場所」だった。

 そして天は墜ちた。街や建築や僕たちの体を垂直に突き抜け、地中へと墜ちた。天は今では古代の地層となって、僕たちの暮らす街の下に広がっている。
畠山直哉