EXHIBITIONS

アルマンド・サラス・ポルトゥガル 「Casa Barragán」

会期: 2017年10月10日(火) – 11月11日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、10月10日(火)から11月11日(土)まで、アルマンド・サラス・ポルトゥガル個展を開催いたします。日本で初個展となる本展では、作家が40年余りに亘り専属写真家として、その建築を記録に収めてきたメキシコ近代建築の巨匠、ルイス・バラガンの自邸であるバラガン邸を撮影した作品を約14点展示いたします。

アルマンド・サラス・ポルトゥガルは、郷里メキシコの多彩な自然環境に魅せられ、活火山を多く抱える山間部や谷間、砂漠や高原、山村僻邑、マヤ文明の遺跡が残るジャングルなど、各地を旅し、その風景を写真に収めました。美しい光景に抱かれ心の赴くまま、目に映る全てを慈しむように撮られた写真群は、メキシコの風景に関する類稀な記録として蓄積し、1941年以降、自然愛好を目的とした市民団体El Club de Exploraciones de Méxicoの発行する機関誌『La Montaña』に掲載される他、個展やグループ展で展覧の機会を得ます。半生に亘る協働関係を結ぶこととなる建築家、ルイス・バラガンとの出会いはまさに、1944年、メキシコシティで開催された展覧会会場にて、バラガンが後に大規模な住宅地を構想することとなる溶岩台地ペドレガルの写真を展示した際に生じたものでした。

ルイス・バラガンは、アシエンダ(大農園)に代表されるメキシコの伝統的生活様式の解釈と、造園家フェルディナン・バックのランドスケープ・デザインの観点や、アラブ・アンダルシア文化に根ざした地中海建築の影響を融合した独自の表現により、1930年代初頭より、スペイン植民地時代の名残が残るグアダラハラで頭角を現します。急速な人口増加を背景とした都市インフラ拡充が喫緊の課題となる中、デベロッパーとして投機を行うことで発注者兼建築家という立場を獲得し、当時流行した機能主義的なインターナショナル・スタイルの踏襲ではなく、自らの信条に従った設計に取り組むことを決断、「感情的建築」を標榜し、多くの重要な建築群を残しました。

土地の固有性と結びつきの強い建築表現を追求したペドレガルの事業を推し進めていた頃、バラガンは当時の自邸(現・オルテガ邸)に隣接する土地に新たな家を建設、1948年に転居し、後半生をこの家で過ごすこととなります。このバラガン邸は、寡黙な外観と豊穣な内部空間に、鮮やかな色使いや土着の素材をふんだんに使用した彫塑的な壁の構成、光や庭による空間構築など、メキシコの叙情性豊かな風土と西洋文化の先鋭的な価値観の融和が見事に図られ、静謐な建築を目指し、今日批判的地域主義の先駆けとして評価される建築家の代表作として、2004年ユネスコ世界遺産に登録されています。

空間イメージの構築において、多くの建築家が平面図などの俯瞰的な視点を思考の拠り所とするのに対し、バラガンは、その建物を象徴する幾つかのパースペクティブを描き、その集合により全体像を決めていく独自のプロセスを用い、写真撮影の際には構図を細かく指定しました。シュルレアリスム絵画への傾倒や、風景を構図として捉えるバックからの学び、チューチョ・レイエスやマティアス・ゲーリッツといった当代の芸術家らとの親交を通じて形成された独自の美学、あるいは土地開発など投機ビジネスへの取り組みを通じて得たイメージの流通の意義への深い理解は、実際の建築作品と媒体としての写真を等価なものとして扱うことに繋がったと考えられます。バラガン邸を彩る作品の制作者であり良きアドバイザーでもあったゲーリッツは次のように述べています。

バラガンは写真家を注意深く選び、ある一定の写真画像の種類と質を達成するために写真家と密接に作業し、これらの写真画像の使われ方と解釈に対して彼が制御し得る限りのことを行い、彼の作品の写真表現に惜しみなく多大な注意を払った

キース・L・エグナー、「バラガンの「写真的建築」:イメージ、広告、そして記憶」、フェデリカ・ザンコ編、『ルイス・バラガン 静かなる革命』、インターオフィス、2002年、p. 180

1960−70年代にかけ急激な経済成長を迎え、近代建築が続々と建設されたメキシコシティにおいて、サラス・ポルトゥガルは多くの建築家の建造物を撮影しました。中でも特筆すべき密度をもって行なわれたバラガン及びバラガン建築との対話は、作家の作品世界をより豊穣なものへと昇華させたと言えるでしょう。

アルマンド・サラス・ポルトゥガルは1916年メキシコ・モンテレイ生まれ(1995年死去)。1932年にアメリカに渡り、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて化学を学ぶ(1935-38年)。帰国後、メキシコ各地を旅する中で初めてカメラを手にし、メキシコの多様性に富む風景を独自の視点で記録、その作品は1941年以降、メキシコの自然愛好を目的とした市民団体El Club de Exploraciones de Méxicoの発行する機関誌『La Montaña』に掲載され、国内で広く展覧された。また、急激な経済成長を背景に興った近代建築群を多く撮影。とりわけ、40年に亘り専属カメラマンを務めたルイス・バラガンの作品を撮影した建築写真群で名高い。主な個展に「Paisaje Mexicano」Palacio de Bellas Artes(メキシコシティ、1944-46年)、「Paisaje Chiapaneco」Circulo de Bellas Artes(メキシコシティ、1949年)、「Luis Barragán. Architect」The Museum of Modern Art(ニューヨーク、1980年)など。

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