EXHIBITIONS

高梨豊 「ニッチ東京」

会期: 2015年8月22日(土) – 9月26日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム
オープニング・レセプション: 2015年8月29日(土) 18:00 – 20:00

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、8月22日(土)から9月26日(土)まで、高梨豊個展「ニッチ東京」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの2度目の個展となる本展では、高梨が「ノスタルジア」「囲市」に続くカラー三部作の一つと位置づける最新作「ニッチ東京」より、作品13点を展示いたします。

高梨は1950年代末より写真家としての活動を始めて以来、一貫して「都市」を主題に、様々な方法論を駆使し多くのシリーズを発表してきました。写真術における参与と観察の接合面を不断に探究しながら、本作で高梨は、田中純の生態学的視点を用いた都市の様相に関する分析と島田雅彦の小説『ニッチを探して』(2012年)から着想を得た「ニッチ」の探索を視座に、対象となる都市の変容自体に眼を向けるのではなく、無数の人の行為によって利用された事物の痕跡を集積することで、環境の輪郭を浮かび上がらせ、都市の「生態学的景観」を捉えています。

ある動物種の生存に対応した環境は種の「生態的ニッチ」と呼ばれるが、その生態的ニッチとは物理的環境ではなく、動物の行為があってはじめて見出されるような空間である。単なる建築物の集合体ではなく「生きられる都市」とは、現生人類の生態的ニッチであると言ってよかろう。生態学的景観とはこの生態的ニッチの表れであり、それを記述するには単に環境を客観的に、即物的に撮影すればよいというものではない。むしろ、「気配」こそが捕捉されなければならないのだ。

田中純「都市を占う」、高梨豊『IN’』新宿書房、2011年、p.139

1965年の「東京人」、及びその10年後に同様のスナップショットという方法論を用いて時代の変化の観察を試みた「東京人1978-1983」以来はじめて、東京という都市名を冠することとなった本シリーズはまた、抽象的な都市ではなく具体的な空間を見つめ直す試みでもあります。

近所の商人と客のやりとり 遊ぶ子供の甲高いさけび
いっとき聞こえる故郷のなまり、お年寄りの世間ばなし、そして
冷やかな庶民の笑いなどそんなひとの声のする
ニッチの響く空間を写し留め置こうと思った
スキマの溢れる場所をとどめおこうとした

高梨豊『ニッチ東京』あとがきより抜粋

マチエールを無くしツルツルとした都市表層の「底なしの深さのなさ」を示した「ノスタルジア」、都市の身振りとしての囲いに「所有や欲望の表徴」を見出し、その裂け目を捉えた「囲市」の批評性を受け継ぎつつ、本作における写真家の身体と眼は、「生きられる都市」へより深く分け入り逍遥し、心理的な隙間とそこに示される人の気配のうちに、生息域の展開と共にある現代人の生き方をあるがままに捉えています。

また、本展の開催にあわせて作品集『ニッチ東京』を刊行いたします。
【作品集詳細】
高梨豊『ニッチ東京』
販売価格:¥ 8,400-(税抜)、タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム刊(2015年)
200部限定(全冊サイン入り)、ソフト・カバー、112頁、掲載作品55点、
倉石信乃によるテキストと高梨豊によるあとがきを収録(英語・日本語)

高梨豊は1935年東京都生まれ。1957年に日本大学芸術学部写真学科卒業。写真家大辻清司との出会いから1959年に桑沢デザイン研究所リビングデザイン科(夜間)へ入学、1961年に日本デザインセンターに入社。広告写真の第一線で活躍する傍ら、1964年に第8回日本写真批評家協会新人賞、1967年に第5回パリ国際青年ビエンナーレ写真部門最高賞を受賞。1968年、中平卓馬、多木浩二、岡田隆彦とともに写真同人誌『PROVOKE』を創刊(1970年活動休止)。1984年度及び1993年度日本写真協会賞年度賞、1991年には、第3回写真の会賞を受賞。1993年、赤瀬川原平、秋山祐徳太子と「ライカ同盟」を結成。代表作に『都市へ』(1974年)、『町』(1977年)、『東京人1978-1983』(1983年)、『初國』(1993年)、『地名論』(2000年)、『NOSTALGHIA ノスタルジア』(2004年)、『囲市』(2007年)など。2009年、個展「光のフィールドノート」(東京国立近代美術館)を開催。2012年、写真集『IN’』で第31回土門拳賞受賞。同年、個展「Yutaka Takanashi」(アンリ・カルティエ=ブレッソン財団、パリ)を開催。

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