EXHIBITIONS

マリオ・ガルシア・トレス 「私たちの空間(第10回東京ビエンナーレ「人間と物質」へのプロポーザル)」

会期:2015年10月31日(土) – 11月28日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー 東京
作家来日オープニング・レセプション:10月31日(土)18:00-20:00

タカ・イシイギャラリーは、メキシコ・シティを拠点に活動するマリオ・ガルシア・トレスの個展「私たちの空間(第10回東京ビエンナーレ「人間と物質」へのプロポーザル)」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーにおける3度目の個展となる本展は、彫刻、写真、音楽作品によるインスタレーションで構成されています。

本展は、1970年に東京にて開催された「第10回日本国際美術展 人間と物質」(通称「東京ビエンナーレ」)へのプロポーザルとして企画されました。美術評論家の中原佑介氏が総合コミッショナーを務めたこの展覧会は、当時のポスト・ミニマリズム、アルテ・ポーヴェラ、もの派などの、異なる視点をもつ美術家の参加プランを実現した国際展として画期的なものでした。当時の現代美術の情況、あるいは広く文化一般の情況をより的確に捉えるために、まだ試みられていなかった方法、たとえば、作家の多くが来日して現場制作を行ない、その場に応じて作品を変化させるなど、美術館という場所や展覧会というメディアに問いを投げかける実験性を帯びた展覧会でした。

そしてこの展覧会は、特定の事柄に対する関心とその実践が、世界中のアーティストの作品間で共鳴していることを明確に示した機会でもありました。中原氏は、「人間と物質は分かちがたく結びつき、それらは互いに影響し合い、互いに規定し合っている」と自身が語る、現実世界との新しい関係を展示作品の中に見出しました。この新たな認識こそがガルシア・トレスが関心を抱く要素なのです。これらの事柄に対する関心がいま改めて高まっていることが、今後の世界の急激な変化を示唆しているのではないかという疑念、そして、現在の変化が1960年代終わりから1970年代始めにかけて起こった、政治と美術の分野における急進的な変化と類似しているのではないかという疑念。このような考えのもとに、「人間と物質」展への現代版のプロポーザルとして本展は構成されています。以下はアーティストの言葉です。

最近、私たちがかつてない未知の体験をしつつある、という感覚が強まっています。1960年代にロシアの科学者が構想した「アントロポセン(人新世)」(地質学における人類の時代)という概念が、近年あらためて精察されています。人間の諸活動が地球の生態系に初めて不可逆的な影響をもたらし始めたと語られるこの時代を生きるということは、人間以外の生物もまた、この世界において強い影響力をもつことを私たちがようやく認めたことにほかなりません。このような概念は、この惑星に対する私たち理解をはっきりと変化させました。

 本展はこの概念と共鳴するものであり、私たちの文化意識の基準の枠組みから外れて生きることについて考察します。それは私たちの「実績ある」知識の即時性に依存せず、むしろ、懐疑の余地を与えてくれるような視点です。そして、私たちの生きる世界を説明しようとするいかなる主張をも避ける、より大きなスペクトルの中で世界を捉える試みといえるでしょう。このヴィジョンにおいては、地質年代は時代遅れの科学理論と、宇宙は古代の知識と、そして集合知は不確実性と結びついています。本展において、作品は「私達に残されている生存空間 (the space we’ve got left) 」を思い起こさせる狼煙です。このように、何か大きな感覚が作品に内在しているということ、現代の文化に対するより多義的な折衝への繋がり、そして私たちがみな無意識の言語で互いに話し合っているのではないかという疑念が、今回の展覧会を実現させる装置になりました。

 私たちが関心と懸念に目覚める時とは、私たち自身の歴史にみられるように、古いパラダイムに疑いの眼差しが向けられる歴史的瞬間にしばしば起こります。近世で繰り返されたこの歴史的瞬間のなかで、もっとも新しい時期は、日本やメキシコなどの都市で社会不安が扇情されていた1960年代に間違いないでしょう。この1960年代が本展の出発点となっています。

1970年になると、中原佑介氏は「人間と物質」展(のちに第10回東京ビエンナーレにて発表)を企画しました。この展覧会は「態度が形になるとき」(1969年)や「丸い穴に正方形の杭を打つ」(1969年)などの展覧会と並んで、おのおの異なる視点を持つアーティストの作品が集められ、芸術とその機能についての見解を再構築しました。中原氏は展覧会の序文でこのように述べています。「われわれ人間は、この現実世界と、ただ意味によってのみ結ばれた存在ではない。この現実の世界とは、われわれをとりまく物質だけでなく、われわれ人間もまたその一部であるような全体である。」

 この精神のもとに、本展で展示する作品は「人間と物質は分かちがたく結びつき、それらは互いに影響し合い、互いに規定し合っている」という姿勢に立ち戻ることを表明します。このようにして、「人間と物質」展へのプロポーザルへと繋がりました。「人間と物質」展は、当時においてそうであったように、今日においても意味深い主題となりうるでしょう。これまで述べてきたことと同様に、今回の作品が提示するものは曖昧であり、今はその軌道を推測することしかできない困難な企てとなるでしょう。

マリオ・ガルシア・トレス

ガルシア・トレスは、1960年代と1970年代のコンセプチュアル・アートに関連する美術史およびその個性を追求し、詩的に物語化するというアプローチによって作品を制作しています。フィルム、写真、彫刻など多様なメディアを用いて、美術史においてまだ発掘されていない空白部分に注目し、意表をつくフィクションと現実の並列や、またそれらを対話させることによって、記憶や理解のずれや曖昧さを浮き彫りにし、現在私達が直面するより広範囲の問題について再び考察することを促しています。

マリオ・ガルシア・トレスは1975年メキシコ・モンクローバ生まれ。現在、メキシコ・シティを拠点に活動。2005年カリフォルニア・インスティテュート・オブ・アーツ卒業。近年の個展として、フォートワース現代美術館(2015年)、ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ(2014年)、プロジェクト・アーツ・センター(ダブリン、2013年)、ソフィア王妃芸術センター(マドリード、2010年)、ステデライク・ミュージアム(アムステルダム、2007年)などがある。また、広く国際的な展覧会に参加しており、第8回ベルリン・ビエンナーレ(2014年)、ドクメンタ13(カッセル、2012年)、サンパウロ・ビエンナーレ(2010年)、台北ビエンナーレ(2010年)、横浜トリエンナーレ(2008年)、ヴェネツィア・ビエンナーレ(2007年)などが挙げられる。