EXHIBITIONS

エットーレ・スパレッティ「Cammina cammina ho ritrovato il pozzo d’amore」

会期: 2024年11月2日(土) – 12月14日(土)
会場: タカ・イシイギャラリー 京都
オープニング・レセプション: 11月2日(土)16:00 – 18:00

タカ・イシイギャラリー 京都は、最も今日的な重要性を持つイタリア人アーティストのひとり、エットーレ・スパレッティ(1940 – 2019)の個展を開催いたします。

今回のプロジェクトは、エットーレ・スパレッティ財団とクリスティアーノ・ライモンディのキュレーションにより、築150年の京町家であるタカ・イシイギャラリー 京都のスペースで展開されます。

まるで古来からそこに存在するかのように、スパレッティの作品がこの邸宅に息づきます。坪庭を見渡す場所に置かれた作品は、自然光の変化に応じて次々と色合いを移行させることで、その姿を変えていきます。一方、床の間という不可侵の空間に置かれた作品は、作家が操る記号体系を顕示します。最後の部屋では、土間床に広がる「逆さまの空」を介して、夕暮れの色彩が室内に運び込まれます。本展で観者の目前に開かれる景観を形容するには、「間」(ま)という表現がふさわしいでしょう。この漢字の象形が示すのは、戸口の内側にある太陽です。それは、微かな光が僅かな隙間を抜けて通り過ぎる、あの詩的な瞬間を想起させます。この無時間的な「風景」にあって、空間とは、所与の瞬間にそれを生きる個々人の知覚が生み出すものなのです。

「私の作品に常に孕まれているのは、心地良さを感じる空間、何かに包まれている、何らかの形で守られていると感じる空間を人に提供することへの欲望です。私にとって最も重要な価値は、贈与にこそ宿るものなのです。誰かにそっと差し出せる何かを自身の中に見つけること。作品は何かを与え返すものですが、あなたはその何かを、まず自身の内で発見しなければなりません。そうして初めて、それを誰かに贈り返そうと試みることができるのです。」

エットーレ・スパレッティ

エットーレ・スパレッティは、絵画と彫刻が融合する作品群を通じて、古典性と現代性の邂逅を打ち立てます。彼の造形言語からはあらゆる修辞が取り払われており、かわりに幾何学な形状や原型的な形体が取り戻されています。その基盤にある一連のコンセプトは、彼の仕事をミニマル・アートから明確に差別化するものです。スパレッティにとって形体とは、色彩という場所からこそ生じるのです。「Anfora, Bacile, Vasi…」(アンフォラ、盥、花瓶…)という字句が語るのは、美術史の全体を連綿と貫くひとつの言語体系です。これらの幾何学的な形体からは頑強性が失われています。精細な塵と化した物質──霧のような──を内に充満させられるように。絵具が塗られたマーブル、色彩の宝庫としてのオニキス、光と影について雄弁なアラバスター。傾きのあるフレームや斜めのエッジを伴った重厚な色彩としての絵画たちは、空間に配置され、互いと共鳴します。時には金箔がオーラを強調し、それらもまた光との関係を変化させます。スパレッティの様々な色彩は「表面」ではなく、知覚不可能な動態を持つ「大気」です。それらは観察者を招き、私たちを迎え入れつつも、決して触れないことを私たちに求めます。それらには深い感情的な質があり、ベアート・アンジェリコからピエロ・デラ・フランチェスカやラファエロ、そしてモランディへと続く、一連の遠い谺を引き連れています。こうして時間的な側面が意味を獲得します。日々、練り込まれた色彩を同時に置くというパーソナルな技法によって刻まれる長大な時間。それがやがて辿り着く最終的な摩滅において、それまで隠されていた色彩は露呈され、天啓がもたらされるのです。
自身のスタジオを好んで家と呼んだスパレッティは、自身が生まれ育った場所でその生涯を全うしました。

「日本への旅から帰ったエットーレは、人々の親切さ、物腰の優雅さ、場所の美しさに深い印象を受けたと私に語りました。私は今回のふたつの展覧会のタイトルとして、ウンガレッティによるふたつの詩を選びました。彼はエットーレが敬愛した詩人です。彼の詩は、その思考と図像の統合の仕方から、しばしば俳句と結び付けられます。」

パトリツィア・レオネッリ・スパレッティ

エットーレ・スパレッティ(1940–2019)は、ペスカーラ(イタリア)のカッペッレ・スル・ターヴォ生まれ。亡くなるまで同地を拠点とした。

世界各地でスパレッティの作品をめぐる多くの重要な展覧会が開催されている。最近ではローマ国立近現代美術館(2021)、モナコ新国立美術館(モナコ公国、2019)、パラッチオ・チーニ(ヴェネチア、2015)などで個展が開かれた。2014年にはナポリのドナレジーナ現代美術館(MADRE)、トリノの市民近現代美術ギャラリー、ローマの国立21世紀美術館(MAXXI)の3箇所で同時に回顧展が催され、イタリアの3つの重要な公的機関が同時にひとりのアーティストに展示空間を捧げた空前絶後の(以前にも以後にも皆無の)機会となった。このとき各美術館は、イタリアの北から南までを貫く単一の展覧会の異なる展示室のように機能した。他の重要な個展に、ローマ国立近代美術ギャラリー(GNAM、2010)、クレーフェ(ドイツ)のクアハウス・クレーフェ博物館(2009)、ローマのフランス・アカデミーのヴィラ・メディチ(2006)、リーズ(イギリス)のヘンリー・ムーア・インスティテュート(2005)、トリノのリヴォリ城現代美術館(2004)、マドリードのラ・カイシャ財団(2000)、ナポリのカポディモンテ美術館(1999)、ストラスブール(フランス)の近現代美術館(1998)、アントワープ現代美術館(MUHKA、1995)、ニューヨークのグッゲンハイム美術館(1993)、パリ市立近代美術館(1991)、アムステルダムのデ・アペル(1989)、ミュンヘン・クンストフェライン(1989)、フランクフルトのポルティクス(1989)、レンヌ(フランス)の現代美術ホール(1988)、ゲント現代美術館(1983)、エッセン(ドイツ)のフォルクヴァンク美術館(1982)などがある。スパレッティは複数回、カッセルのドクメンタ(1982、1992)およびヴェネチア・ビエンナーレ(1982、1993、1995、1997)に招待された。常設のインスタレーションに、ギャルシュのレモン・ポアンカレ病院のために制作された《出発ホール》(1996)、ペスカーラのチッタ・サンタンジェロにあるヴィラ・セレーナ介護老人ホームのために建築家のパトリツィア・レオネーリと共作した《チャペル》(2016)などがある。

エットーレ・スパレッティ財団は2022年にパトリツィア・レオネーリ・スパレッティによって設立。エットーレ・スパレテッィの作品の保護と保存を目的とする。イタリアにある作家のスタジオを拠点に、彼の作品に関する知見を広め、関心を高めるための取り組みを推進している。

クリスティアーノ・ライモンディは建築の社会学と美術との関係性に関心を持つインディペンデント・キュレーター。イタリアとブラジルの間で長期間のリサーチに取り組む。2019年にモナコ新国立美術館でエットーレ・スパレッティの個展を企画。

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